生命保険といえばときどきテレビで詐欺のニュースやってるなあ、程度の知識しかなかったのだけれど、Kindle で入門してみたらけっこう面白かった。
- 作者: 岩瀬大輔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/05/10
- メディア: Kindle版
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社長(当時)によるまじぽかさんのコスプレでも有名なライフネット生命の副社長(今は社長のようだ)による本。
生命保険の機能
大雑把にまとめると、生命保険には2つの機能がある。
- 保障(死亡・医療)
- 貯蓄
保障ってのは普通に考えた意味での保険だ。みんなでお金を出し合って少しずつ積み立てておき、不慮の事態に遭遇した人に一定のお金を支払って扶助してやる、というもの。こういった仕組みで、人々にわたってリスクをならしている。いざという時の備えというのはコツコツと貯蓄をしていれば賄えるはずだが、貯蓄の量がほぼ時間に比例するのに対し、リスクは自分のことを待ってはくれない。明日にでも、空から降ってきた女の子が自分の頭蓋を直撃するかも分からないのだ。そんなわけで、個々人の観点から見ると、時間にわたってリスクをならしているのだと見ることもできる。これをこの本では「時間を金で買う」という表現で繰り返している。こちらは基本的に掛け捨てになる。保険会社がしているのは「リスク請け負い」と呼べる。
貯蓄も普通に考えた意味での貯蓄だ。掛金は積み立てられ、契約が満期になったタイミングで(運用益を加えた上で)返還される。たくさんのお金を預かる業務の性質上、こういった機能の商品が出てくるのも自然なことのように思える。それとも、月々一定額を支払っておきながら、運悪く(運良く)死ななかったときには金が手に入らないことを不満に思う客がいるからなのかもしれない。こちらの場合、保険会社は「資産預かり」をしている。
生命保険商品の種類
保険商品の種類には3つある。
- 定期保険
- 養老保険
- 終身保険
定期保険は前の機能分類で言うと「保険」のみの機能。なので掛け捨てだ。10年や20年といったスパンで加入し、期間内に死亡すると保険金が支払われる。満期になっても、契約を更新することで保障を続けることができる。もちろん死亡リスクは高齢になるほど高まっていくので、更新するたびに保険料も高くなっていく。
養老保険は「保険」+「貯蓄」。これは契約期間内に死亡すると保険金が支払われる点では前と同様だが、死亡せずに満期を迎えると満期金を受け取ることができるというもの。積み立ててきたお金が無駄にならないように思えるので、契約者としては嬉しいのかもしれない。ここで、途中で死亡した場合に支払われる金額にはそれまで積み立ててきた分のお金も含まれている。500万円の商品であれば、契約開始直後に死亡した場合は全額500万円が死亡保険金として支払われるが、300万円積み立てた時点で死亡した場合は200万円の死亡保険金+300万円の貯蓄により500万円の保障額となる。
終身保険も養老保険と同様だが、これは一生涯の死亡保障をおこなうもの(満期が100歳を超える年齢に設定されている)。老齢になるほど死亡リスクは高まっていき、保険料も高くなるので、若いうちから予め将来の分の保険料を含めて多めに支払っていることになる。まあこの構造は他の保険でもいっしょ。
医療保障
ここまで書いてみると、「ケガ・病気のときはどうするのか?」と疑問に思う。ぽっくりと死んでしまってお金が残るならそれはそれでいいけれど、重い病気を抱えて治療費はかかるわ食い扶持は減らないわとなったら大変そうだ。むしろこっちの方が心配だとも思える。 まあここのあたりの話はあまり仕組みめいていなくて、たんに制度的な話だったので(興味がなくて)ちゃんと理解できていないのかもしれないけど、
- 三割の自己負担に加えて高額療養費制度というのがあるので、治療費がかさばる場合でも出費は比較的抑えられる。
- 入院日数は短縮化の傾向にある。(医療保険は入院保障・手術保障というのが標準的らしい)
というところを鑑みると、体のガタが出始めるまでに貯蓄しておくというのでも賄えるのかもしれない。まあ自己負担率がこれからどうなるかは分からないし、まとまった出費があることに間違いはないので、公的の保障を補完するものとして備えておくという手はあるだろう。
何を選ぶべきか
まず、
- 生命保険は少ない出費で大金を手にする手段ではない。(これに気づいたのが一番の収穫だった)
- 時間をかけてよい将来への備えという点では、貯蓄をすればよい。
という前提で、
- 複数の人間の人生がひとりの人間の収入に依存している場合は、死亡保障に入っておいたほうがよさそう。片肺運用は怖い。その場合、例えばサラリーマンなら定年後を過ぎての保障はいらないだろう。生きていたところで稼ぎを産みだすわけではないからだ。
- 貯蓄は満期で受け取れるボーナスなどではなく、あくまで貯蓄だと分かった上で、必要そうだと思う分だけしてみてもいいかもしれない。保険会社が倒産したときのリスクと天秤にかけつつ、銀行に預けるよりはマシかどうか。全然調べてないけど、金利はたぶんいいんだろうな。
おわり
顧客・企業それぞれの観点から保険の仕組みを知ることができたのはけっこう楽しかった。数理的な部分も面白そう。ただ、企業の中の人が書いているわけなので自社に有利に話を進めているところはあるのかもしれない(ライフネット生命は貯蓄を扱っていないらしいので、そういう点とか)。日本では死亡保障が、欧米では貯蓄商品が人気らしいのだけど、その差がついた経緯も平易に説明してくれていて、知識ゼロでもかなり理解した気分になれる。
- 作者: 岩瀬大輔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/05/10
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