詩と創作・思索のひろば

ドキドキギュンギュンダイアリーです!!!

Fork me on GitHub

ウェブ開発チームのマネジメント:『モチベーション3.0』を読んだ

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

年末なのでウィッシュリストを棚卸しして、『モチベーション3.0』を読んだ。今は開発チームのマネージャ的な立ち位置で働いているので、メンバーに如何に気持よく働いてもらえるか、というのが最近気になっている。

前提

人間をつき動かすモチベーションには三種類ある。

  • モチベーション 1.0: 生存のため、必要にかられて行動を起こす。動物的なもの。
  • モチベーション 2.0: 「これをすればかくかくの報酬がある」「これをしなければかくかくの処罰がある」という予測に基づいて行動を起こす。アメとムチによりコントロールされる。
  • モチベーション 3.0: 自らの内的な価値観に基づいて行動を起こす。

著者はこの本の中で、これまでの社会活動、とくに企業が労働者をマネジメントする仕組みはモチベーション 2.0に基いて進められてきたが、最近の世界的な情勢や研究を鑑みると、これが期待どおりに働かなかったり、逆効果であったりすることが分かってきたのだという。そこでモチベーション 2.0をモチベーション 3.0にアップグレードすべきだ、という話。 ちなみに 2.0 とか 3.0 というのはモチベーションに関する考え方を OS になぞらえていて、OS みたいな抽象的なものが喩えとして使われるのか、となんだか面白かった。

この主張のひとつの証左として、「幼稚園の迎えに遅刻する親に罰金を課すようにしたところ、かえって遅刻が増えてしまった」という面白いエピソードがある(そういえば NHK でもこの話やってた、と思いながら読んだ)。また、内発的動機づけによる行為に対して外発的な動機をあたえるとモチベーションが低下するという話は、この本では名前が出ていなかったけれど「アンダーマイニング効果」と呼ばれる現象らしい。

内発的な動機のためになにができるか

まあ上に書いたことは知ってた、ような話で、いわゆるマネージャ的な肩書を持っている自分としては、じゃあ内発的な動機づけとそこから来る行動のためになにができるか、というのが気になるところだ。筆者によるとこれには三つの柱がある:

  • 自律性
  • マスタリー(熟達)
  • 目的

自律性は自己決定。「何をするのか」「いつするのか」「どのようにするのか」「誰とするのか」を自ら考え、決定し、実行できるようにすることが、個々人のパフォーマンスを高めることにつながる。

マスタリー(熟達)は何か価値あることに上達したいという欲求。これは苦痛でもあり終わりない戦いでもあるが、これは自己充足的で、それ自体報酬となるプロセスでもある。

正直このふたつはインターネットでオープンソース活動なり個人活動をしている開発者(エンジニアやデザイナ)なら実感としてすでに知っているようなことだろう。現在の職場もそういった背景を持っている人びとが多く、この本で時代遅れとされているような、マネージャが部下の時間を時間やタスクを監視し、完全に管理しようとするような働きかたとは程遠い(と思う)。

そこでおそらく最も重要なのが三番目の目的。これは外的な報酬や処罰とは次元を異にする、社会的価値だとか人生の意味だとかいった、いわば高邁な目標だ。そして個人活動では達成できないことを、会社やチームで働くことで達成する意義はここにこそあらわれるはずだ。お給金のため……ももろんなのだけれど、それだけじゃない チームを率い、メンバーの生産性を最大化する責務があるマネージャは特にここに重心をおき、組織とチームの存在理由を十分に浸透させる仕事をする必要があるだろう。そうすれば自律したメンバーのアウトプットと会社の望む方向とのズレも最小化できるはずだ。

どうしてもやらなければならない仕事は

それでも組織が生存するために、つまらないルーチンワークをお願いしなければならないこともある。申し訳ない話だけれどそれでもやっぱりある。そういうときはどうすべきか? という話もこの本には載っていて、こういうことだった:

  • その仕事が必要であることを論理的に示し、
  • その仕事が退屈であることを認め、
  • その進め方にある程度裁量を与える。

また創造的な仕事でも環境が許さず自律・マスタリー・目的を構築できない場合にも、以下のように気をつけるとよい:

  • 仕事が終わったあとに、「思いがけない報酬」を与える。
  • 具体的な報酬よりも、賞賛やフィードバックを。

その他面白かった話

  • アトラシアンのフェデックス・デーの話がおもしろかった。24時間でなにか作って出す(デリバーする)、というもの。今は ShipIt Day と呼ばれてるのだろうか。
  • 偉大な仕事をした人物は、一文で表せるもの。自分を一文で表現すると何か? と問いかけてみる。
  • (子供に)自分で目標を立て、自分で成績表をつけさせてみると、内発的動機づけにつながる。

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか

『Write Great Code: Volume I: Understanding the Machine』を読んだ

Write Great Code: Volume I: Understanding the Machine』を読んだ。副題に注目。予想していた以上にマシンの話だった。

自分たちが書くあらゆるプログラムは、それが現実界で動いている以上、必ず物理的な実体を持つコンピュータの上で動いている。こう動いてほしいと願って書いたコードがどんな風に解釈され、表現され、実行されるかということを、この本ではごくごくマシンの側から描いてくれる。C言語が一種の高級言語という範疇に収められているところから、その立ち位置を想像されたし。

今自分が書き、走らせているプログラムは様々な抽象の上に構築されているのだけれど、それらのあらゆる抽象化を取り去って、数値や文字列といった、プログラムが扱うデータはどんな風にメモリ上に配置されるのか。CPU への命令はどんな風にビット列として表されるのか、それを CPU はどんな風に処理するのか。メモリやディスクへの IO はどんな風に行われ、どんな風に高速化が試みられているのか。一台のマシンの中ではどんな機器が協調して働いているのか。などなど、もちろん知らなくてもプログラムを動かすことはできるが、知っていれば効率のよいコードを書けるだろう知識を広く扱っている。

プログラミングに欠かせないプロセスとして抽象化された概念が、実のところどのように現実的・物理的に実現されるか、垣間見ることができたのはとてもおもしろかった。特に CPU の働き、キャッシュの仕組みを見ると、ものすごく複雑な仕組みの上で自分のプログラムが動いていることを知って、感謝の念が湧いてくる。マシンの歓声を聞くことも、もしかしたらできるのかもしれないという気がしてくる。

この本では、こういったマシンの働きを知ることがグレートなコードを書くことにつながると言っている。実際のところ、現在のかなり抽象度の高い環境でこの知識たちが直接活用できるとは思えないけれど、例えば OS の働きを知るのにこういった土台のことを知っていることは重要だろう。出版年が古く(2004 年)、扱われるトピックも具体的な名前は古いところが時おり見られるが、本質的な部分はまだまだ通用するはず。

最近日本語訳も Kindle化 されたらしいです。洋書はこのボリュームで 2000 円しなくて安い。

Write Great Code: Volume I: Understanding the Machine: 1

Write Great Code: Volume I: Understanding the Machine: 1

Write Great Code〈Vol.1〉ハードウェアを知り、ソフトウェアを書く

Write Great Code〈Vol.1〉ハードウェアを知り、ソフトウェアを書く

  • 作者: Randall Hyde,鵜飼文敏,まつもとゆきひろ,後藤正徳,トップスタジオ
  • 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本
  • 購入: 2人 クリック: 129回
  • この商品を含むブログ (105件) を見る

この本の次によむならこの本でもよく挙げられているパタヘネか Linux カーネル(再読)かネットワーク低レイヤの本かな(どんな本がいいのか知らない)。

コンピュータの構成と設計 第4版 上 (Computer Organization and Design: The Hardware/Software Interface, Fourth Edition)

コンピュータの構成と設計 第4版 上 (Computer Organization and Design: The Hardware/Software Interface, Fourth Edition)

  • 作者: デイビッド・A・パターソン,ジョン・L・ヘネシー,成田光彰
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2011/11/17
  • メディア: 単行本
  • 購入: 7人 クリック: 19回
  • この商品を含むブログ (8件) を見る

Linuxカーネル2.6解読室

Linuxカーネル2.6解読室

デザイン4+1の基本ルール: 『The Non-Designers Design Book』を読んだ

なんかで Kindle の洋書が安かったときに何となく買っていた『The Non-Designers Design Book』を読み終えた。素人のための……というよりは新人デザイナーのための本のようなのだけど、エンジニアの自分が読んでも面白かったので書いとく。日本語版もある。

4つのルール

曰わく、デザインには基本的な4つのルールがある。それぞれの頭文字を取ると "CRAP" ……となるのだけれど、これは上品な単語ではないのでそう示唆されるだけではっきりとは書かれない。ともかく、各々に対応する原則は以下のとおり。

  • Contrast(コントラスト)
  • Repetition(反復)
  • Alignment(整列)
  • Proximity(近接)

これらにどういう意味があり、どう活用すべきであるか。本で紹介される順に書いていく。

Proximity

意味的に関連する要素どうしを近くに置いてグルーピングする。逆に直接関係のない要素どうしは離して配置する。そうすることで、ページ内の情報を組織化できる。

Alignment

ページ上の要素どうしを視覚的に関連づける。たとえ二つの要素が離れていても、同じように整列されていればそれらは関連しているように感じられる。安易に中央揃えしない! 右でも左でも、一方に要素を揃えることでより強く関連づけられる。組織化と統一が目的。

Repetition

色やフォントなどの視覚的な要素を繰り返し、一貫性を持たせる。これは1ページ内のことに限らなくて、例えば数ページに渡る文書でも、見出しや罫線といった部分の体裁を同じに整える。ここでは統一と視覚的に関心を持たせることが目的。

Contrast

2つの要素の違いを際立たせる。要素どうしがなんか違うという状況では単に間違えてるだけに見えてしまう。ここで違いというのは色とかフォントとか文字サイズだけじゃなくて、横長の罫線に対して縦長のカラムを置くとか、そういうことでもいいらしい。目的はページに関心を持たせること。

至上のルール

以上4つの法則に加えて、何度も何度も繰り返されるいちばん基本的なルールは、"Don't be a wimp"。怖気付くな! コントラストを作るなら中途半端じゃなく思いっきりやる、空白を怖がらない。等々。ホントに何十回と言われるのでよっぽど大事なことなんだろう。

タイプについて

それからタイプ(書体?)についての話も面白かった。CSS だけからなるこれまでの経験で、フォントの違いには serif、sans-serif と等幅とあと装飾的なの、くらいしか区別できていなかったけれど、本当はもっといろいろある。特にこれまで serif だと認識していた中にも Oldstyle, Modern, Slab serif なんてカテゴリがあるんだそうだ。この章を読み始めたときはそんなの気にするのアルファベットを日常的に使ってる人間だけで日本語ユーザの自分には関係ないだろう、と斜に構えていたのだけど、読んでみて、実際に試してみると、確かに……と思えてしまったので面白かった。これらの違いを理解して、うまくコントラストを作ってやることが大事。

まとめ

4つのルールなどといっても、聞いてみればそりゃそうだろうという気もするかもしれない(自分はちょっとした)。けど本当に大事なのは、こういったルールに名前をつけて、自覚的になることだ。自分がデザインしたページに違和感があるときに、その原因は何なのか名前を上げることができるようになることが重要である。そうすれば、何となく今ひとつに感じてしまうデザインを確実によりよくできるはずだ。……とまあ実際に実現可能かどうかは別として、これまでは結局センスの産物なんだろうと思っていたデザインを、新たな視点で見られるようになったと思う。

Kindle 版の場合はカラーで(タブレットやスマートフォンで)読むのがオススメ。

The Non-Designer's Design Book (3rd Edition) (Non Designer's Design Book)

The Non-Designer's Design Book (3rd Edition) (Non Designer's Design Book)

ノンデザイナーズ・デザインブック [フルカラー新装増補版]

ノンデザイナーズ・デザインブック [フルカラー新装増補版]

  • 作者: Robin Williams,吉川典秀
  • 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
  • 発売日: 2008/11/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 58人 クリック: 1,019回
  • この商品を含むブログ (105件) を見る

4つの原則の日本語訳はこのスライドを参考にした。とても分かりやすいし、本の内容がかなり補強されると思う。

はてなで一緒に働きませんか?