リーダーシップというと、カリスマ的な魅力をそなえた人物が輝かしいビジョンを指し示し、大衆を率いていく……というドラマチックな光景を思い描いてしまうものだが、実地で求められるリーダーシップとはそういうもの(だけ)ではない。というか、そうであってほしい。
ここでは英雄的資質を持って生まれなかった多くの人間が、どうやってリーダーシップを獲得していけるのか、を考えていく。
定義
リーダーシップを定義するために語られていることを、いくつかの本から引用してみる。
リーダーシップとは、集団に目標達成を促すよう影響を与える能力である
(スティーブン P. ロビンス『組織行動のマネジメント』)リーダーシップとは、理由の如何にかかわりなく、[何かしらの目標をめざして]他人や集団の行動に影響を与える試みそのもののことである。
(ハーシィ・ポール他『入門から応用へ 行動科学の展開』)「絵を描いてめざす方向を示し、その方向に潜在的なフォロワーが喜んでついてきて絵を実現し始める」ときには、そこにリーダーシップという社会現象が生まれつつある
(金井壽宏『リーダーシップ入門』)
つまるところリーダーシップとは、
- 何かしらの目標を達成するために、
- 他人の行動に影響を与えること
だといえる。
たしかに生まれつきカリスマ的な素質をもっている人間はこれをやってのけるだろう。
だけどそうでない人間にだってできるし、そのための能力を開発することだってできる、というのが近年の見解だ。
また、これらの定義では、リーダーシップをいわゆる公式の上司から部下に対してのものにまったく限っていない、というのも重要だ。リーダーシップはあらゆるところにありえる。
リーダーシップを説明する試み
リーダーシップの研究は100年ほどの歴史をもつほど長く、いろいろな側面からリーダーシップを説明しようと試みられてきた。
初期には冒頭のような素朴なリーダーシップ観、つまり一部の人が先天的に持つ人格や特性に基づいてリーダーシップの効果性を解き明かそうという試みが多数あったけど、結局のところこれを強く説明する変数は見つからなかったらしい。
その後、フォロワーの特質や周囲の状況といった要素にも注目されるようになり、効果的なリーダーシップのありかたはそれらの変数による、とされている。ところ変われば品変わる、というわけだ。このへんの話が、『新一分間リーダーシップ』(自分は旧しか読んだことないけど)で紹介されている状況対応リーダーシップ(SL)に集約されていると思う。
SL理論には、達成すべきタスクを指し示す課題行動と、フォロワーを動機づけ支援する関係行動というふたつの大きな軸がある。これらをフォロワーの状況によって組み合わせていく、という話なわけだけど、それは書籍を読んでもらうこととして、上にあげた「目標を達成する」「行動に影響を与える」とも呼応することが見てとれる。『リーダーシップ入門』によれば、さまざまなリーダーシップの理論の軸はこのふたつに集約される。
パワーと信頼
さて、そのように軸を分けたときにおそらく難しいのは対人関係で、他人をどう動かすのか、というのが一般に悩ましい部分だろう。
何らかの形で他人を動かす能力のことをパワーというが、パワーには大きく分けて2つのありかたがある。
- 公式の力
- 組織の権威によって設定されたパワー。
- 人事評価とか賞罰の権限を持っているライン上のボスはこういうものを持っていると考えたらいい。
- 個人的な力
- 権威によらない、個人に帰属するパワー。
- その人が持つ専門性による影響力や、人格や行動への評価による同一化。とくに後者が発展すればカリスマ的なパワーとなる。
公式の力を得るには外的な要因が必要なのに対して、個人的な力は日常のふるまいで獲得していくことができる。逆に、個人的な力を開発していくことが、公式の力につながるケースも多いだろう。
パワーはひとりで発揮できるものではなく、相手にどう受け止められるかがあってのものだ。そのために重要なキーワードとして、信頼がある。
信頼とは、相手が何かしらの一貫した行動を取ることへの期待だ。これを構築していくために、誠実であること、能力を高め認められること、周囲に対する言動に一貫性をもたせることが重要になる。
ソフトウェアエンジニアのリーダーシップ
最後に、ソフトウェアエンジニアのリーダーシップについて考えてみる。テックリードなどのポジションを持つことによらずパワーを獲得していくためには、信頼を構築していくことを目指したい。
そのためにソフトウェアエンジニアが日常にできることはいろいろある。
たとえばADR(Architecture Decision Record)を書く。どういう課題を解決するもので、どういう意図で導入するのかということに関して、自分なりの論理的な意見を書き、伝える。ADRほど大仰ではなくても、普段のPull Requestでもできることではある。
また、システムを相手にしない場合も、後輩のメンタリングや同僚との相談などを通じて小さな場でリーダーシップを発揮してみることもできる。単純に人的ネットワークを構築する意味でも効果がある。
最後に、フォロワーとしてのふるまいも重要だろう。誰もがリーダーになりうるのであれば、誰もがフォロワーになりうる。フォロワーあってのリーダーでもある。そのときのリーダーが何を意図しているかを自分なりに考え、コミュニケーションしていく動きも、自分自身のリーダーシップにつながるはずだ。
参考文献
とまあそれなりに読んで自分でまとめてみたつもりだけど、詳しいみなさんの指摘を歓迎します。